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仙台地方裁判所 昭和61年(ワ)767号 判決

原告

佐々木正弘

原告

小林雅文

被告

旧名称日本国有鉄道日本国有鉄道清算事業団

右代表者理事長

石月昭二

右訴訟代理人・代理人

中野誠也

安岡昌龍

吉田誠

右訴訟代理人弁護士

佐藤昭雄

主文

各原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告両名の負担とする。

事実

(申立)

原告佐々木は「同原告と被告の間において、旧日本国有鉄道が昭和六一年四月二一日付をもって同原告に対して行った戒告の懲戒処分が無効であることを確認する。被告は同原告に対し一三万二二〇〇円及びこれに対する昭和六三年一一月一七日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。」、原告小林は「被告は同原告に対し一〇万円及びこれに対する昭和六一年八月二六日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。」との判決を求めた。

被告訴訟代理人は、本案前の抗弁として「原告佐々木の戒告無効確認請求の訴を却下する。」、本案につき主文同旨の判決を求めた。

(主張)

第一  原告両名はその各請求の原因を次のとおり陳述した。

一  原告佐々木正弘は昭和三八年一二月二三日、原告小林雅文は昭和五五年七月一日、日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)に職員として採用されたが、昭和五九年一一月九日当時仙台鉄道管理局仙台運転所に勤務し、原告佐々木は車両検査係の、原告小林は車両検修係の職務を担当していた。

二  国鉄は、原告両名が、昭和五九年一一月九日午前八時四〇分からの点呼の際の行動につき、「昭和五九年一一月九日仙台運転所において業務命令に従わず職場規律を乱す行為があった」として、昭和六一年三月三〇日、原告佐々木に対しては懲戒処分として戒告、原告小林に対しては訓告として厳重注意をする旨通告し、これに対し原告佐々木は異議申立をし弁明弁護の手続を経たが、国鉄は同年四月二一日右戒告処分を発令した。

三  しかしながら、原告佐々木が懲戒処分の処分事由に該当する行為をしたことはなく、国鉄当局からこれに該当する言動があったとされても、その行為に対する同原告の主張は後記第三末尾記載のとおりであって、国鉄の右戒告は懲戒権の濫用であるから、無効である。

四  原告佐々木は昭和六二年四月一日付で国鉄を退職し、東日本旅客鉄道株式会社(以下「JR東日本」という。)の職員となったが、本件処分発令により定期昇給が延伸されたため、これがJR東日本採用時における賃金の決定にも影響し、右定期昇給の延伸が行われなかったならば「一般五」七二号俸(二三万九八〇〇円)とされるべきところを、「一般五」七一号俸(二三万八四〇〇円)の発令を受け、そのため、昭和六二年四月一日から昭和六三年八月三一日までの間、賃金において毎月一四〇〇円、一六カ月で二万二四〇〇円の損害を受け、また、昭和六二年六月、五二万五八四〇円(本来ならば五二万八七八〇円)、同年一二月、七〇万一一二〇円(本来ならば七〇万五〇四〇円)、昭和六三年六月、五五万〇四一〇円(本来であれば五五万三三五〇円)の一時金の支給を受けたが、一時金上の損害は合計九八〇〇円となる。

五  原告佐々木は本件戒告処分により著しい精神的苦痛を受けた。右苦痛に対する慰藉料は一〇万円が相当である。

六  原告小林も被告が主張するような業務命令に従わず職場規律を乱す行為をしたことはない。したがって、原告小林に対する厳重注意は根拠のない違法な行為である。原告小林は、右違法行為により著しい精神的苦痛を受けた。右苦痛に対する慰藉料は一〇万円が相当である。

七  よって、原告佐々木は本件戒告処分が無効であることの確認を求めるとともに、右処分による損害賠償として逸失利益三万二二〇〇円及び慰藉料一〇万円の合計一三万二二〇〇円並びにこれに対する訴変更申立書送達の日の翌日である昭和六三年一一月一七日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告小林は不法行為に基づく損害賠償として慰藉料一〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六一年八月二六日から完済に至るまで前同様年五分の割合による金員の各支払を求める。

第二  被告訴訟代理人は、原告佐々木の戒告無効確認請求の訴に対する本案前の抗弁の理由を、

日本国有鉄道改革法並びにその関連法の制定施行により、昭和六二年四月一日、国鉄はその事業から、六つの地区に分れて旅客鉄道事業を営む六個の株式会社と貨物鉄道事業を営む一個の株式会社を分割して、民営の新事業体(以下改革法と同様「承継法人」という。)として新たに発足するものと、右事業体に承継されない業務を処理する事業体に分割され、承継法人に事業を引き継いだ国鉄は日本国有鉄道清算事業団たる被告に移行し、承継法人に承継されない資産、債務等を処理する業務を行うほか、国鉄から承継法人に採用されなかった職員の再就職の促進を図るための業務を行うことになった。原告佐々木は承継法人の一つであるJR東日本に採用を希望し、昭和六二年二月一二日、設立委員会委員長から同年四月一日付でJR東日本に採用する旨通知を受け、同年三月一六日付で国鉄に対し退職届を提出し、同年四月一日JR東日本との間に、新たに労働関係を発生させると同時に国鉄との労働関係を消滅させた。

原告佐々木の戒告無効確認請求は、国鉄との労働契約関係の存在を前提とし、右労働契約に基づく国鉄の同原告に対する指揮命令違背を理由とする懲戒処分につき、その違法無効の確認を求めるものであったが、前記のように自らの意思に基づく右労働契約の解消により、過去の法律関係の確認を求めるものとなったのであり、確認の利益を欠くに至ったので、不適法である。と陳述したうえ、

一  原告両名の各請求原因に対する認否を、「一の事実中原告佐々木が国鉄の職員として採用されたのは昭和三九年一〇月一日であり、その余は認める。二の事実は認める。三は争う。四の事実中原告佐々木が国鉄在職中本件戒告処分により定期昇給が延伸されたこと、及び昭和六二年四月一日付で国鉄を退職し同時にJR東日本の職員に採用されたことは認め、その余は争う。原告佐々木は東日本旅客鉄道株式会社設立委員との間で、同年四月一日からの賃金を「一般五」六七号俸(二三万二八〇〇円)、特別発令で「一般五」七一号俸(二三万八四〇〇円)とする労働契約を締結した。五は争う。六の違法な行為であるとの主張は否認し、その余は争う。

二  抗弁として、原告両名の非違行為につき、

1 昭和五九年一一月九日午前八時四〇分から、仙台運転所第三検修室において、所定どおり、同運転所鈴木武夫検修助役が交検班の三八名に対し、また、当日休んでいた同所佐々木修助役の代務として同所佐藤孝検修第一科長代理が台検班一二名に対し、それぞれ呼名点呼を行った。その後、あらかじめ配付してある作業日報に従い、午前八時四三分頃、鈴木助役が次のとおり作業指示を行った。

「交検一番線において、交番検査(所定の周期で主として車両の各機器の動作を確認すること、以下「交検」という。)を行う車両は、S八五の四八(二両)とTS八の一二五(一両)の合計三両(モーター付車両が二両とモーターのない車両一両、これを二M一Tという。)である。ただし、S八五の四八は硝子の清掃を省略する。TS八の一二五は硝子の掃除が必要である。交検一番線には所定一二両編成のところ、上野方の三両を切り離して九両入線している(所定一二両編成の列車は三両ずつ四群に区分されるが、上野方から第一群の三両は切り離して入線している。)、本日の交検は第二群の三両について行い、第三群、第四群は交検を要しない車両となる。交検に使用する運転台付車両は、片方を切り離しているため青森方の先頭車両となる。交検の対象となる三両以外の六両について、電気回路を構成するための器具(介物)の取りつけが必要となるが、その取り付け作業はPC(制御器関係作業)担当と上電(屋根上、室内関係作業)担当の車両検査係(以下「車検」という。)の二名が行うこと。照明、冷暖房等の加圧試験は交検車両とその青森方に隣り合わせているT'車(T八―一一二)をジャンバー線でつなぎ、T'車の配電盤を操作してT'車から交検車両に電気を流す作業は上電担当の車検が行うこと。この交検を終えた車両を含む編成は、明日、一一月一〇日の一〇〇六M列車として使用する。」

2 次に、作業日報に添って順次、交検二、三番線、修繕一、二番線、フライス庫入線車両(当日、交検一番線に入線した交検車両から切り離された上野方二M一Tの三両)、修繕欄、車両運行状況、行事その他の記事欄を読み上げて指示伝達し、最後に安全カレンダーと安全チェッカーを読み上げ、点呼を終わりますと締めくくり、始業点呼を終えた。

3 右点呼作業が終わった午前八時五二分頃、鈴木助役は自分が立っていた位置の後方の台上に置いた点呼簿を取るため二、三歩移動し点呼簿を手にして自分の机に戻ろうと移動しかけた時、右助役左前方に腰掛けていた原告佐々木が「今日の交検おかしんでないがや」と発言し、異議を唱えた。

仙台運転所では、昭和五七年三月から、点呼の際の業務指示に不明な点がある場合は点呼終了後にまず車両検査長に質問し、その回答で納得いかない場合は助役に質問して指示を受けることになっていた。鈴木助役は、点呼で指示したように二M一T三両がフライス庫に入っているため、今日はこれでやってもらう旨回答し席に戻ろうとしたところ、原告佐々木が「当局の都合の良い時ばかりやってもらうだのといって、おかしいな。今までこのようなことはなかった。」と言った。鈴木助役は再度「点呼で言ったように運用の都合によるものであり、本日はこれでやってもらう。」と指示したところ、原告佐々木はこれに対しても何か抗議したようであった。鈴木助役はこれには構わず、自席へ向かい二、三歩進んだ時、原告佐々木の右斜め後ろに座っていた庄子幸吉車検が立ち上がり、「何、運用の都合だと。」と言い、作業日報を見ながら「TC'車があるじゃないか。昨日から言ってたろう、問題になるって、こんな交検やったことない。」と大声で言ったので鈴木助役は使える車はない旨答えた。

4 鈴木助役と原告佐々木らとの右やりとりがあった頃、台検担当の職員一二名は既に作業に就いていた。そこで、鈴木助役は午前八時五四分、作業に就いていない全員に向かって「点呼は終わっています。作業に就いて下さい。」と命じたが誰も作業場に赴かなかった。その間も庄子車検は「二Mの( )(この( )は右運転所の現場において「括弧」と呼称し、( )の次の数字と記号は車両を意味し、( )車両とは、交番検査において、車両編成中に交検を行う車両と交検を行わない車両がある場合に、交検を行わない車両のことである。)なら判るが四Mの( )は今までにない。( )要員を外したわけは判っているのか。横山係長が交検助役の時話しているぞ。やれと言われればできるよ。しかし、団交無視ではないか。業務命令出すのか。地本に電話するぞ。労働条件の変更だ。( )要員つけろ。」と声高に抗議した。これに対し、佐藤科長代理が、「労働条件の変更ではありません。あなたは、この状態では仕事ができないのですか。」と庄子に対し注意し、続いて鈴木助役が全員に対し、午前八時五八分頃「点呼は終わっています。作業に就いて下さい。」と重ねて命じた。しかし、職員はいずれも動こうとせず、庄子も「作業できる、できないの話ではない。( )要員をどうするかだ。( )要員をつけないで作業をやれだなんて、所定作業ではないんだぞ。労働条件の変更だ。」と言い続けた。

5 午前九時三分頃、鈴木助役は「点呼で指示したとおり、作業してもらう。点呼は終わっています。皆さん作業に就いて下さい。」と重ねて命じた。庄子は「団交で( )要員を外したときの説明は二M一Tの要員で行くといったではないか。団交無視だ 聞いてみろ。」と声を張り上げた。佐藤科長代理も、「助役が話したとおり作業してもらう。皆さん作業に就きなさい。」と全員に命じたが、庄子は執拗に「( )要員はどうするんだ。やればできるが、そんな話にはならないよ。団交無視だぞ。どうするんだ。」と言い続けていた。

午前九時七分頃になって半沢、大野の両検査長が黙って席を立つと、ようやく他の職員も各々席を立ち始め、九時八分頃鈴木助役の「所定作業に就いてもらいます。作業でオーバーするところは検討する。」との再度の命令をきっかけとし、庄子は「所定作業か、さあ行くか。」と言って席を立ち、他の職員らも作業場へ赴いた。

6 当日の交検作業は、点呼での指示どおり実施され、午後四時ころ終了した。

7 なお、当日の交検班の職員三八名全員は午前八時五四分から同九時八分までの間一四分間就労しなかったので、その時間を欠勤として取り扱い賃金を減額(国鉄では俗に「否認」と称している。)することとし、当日午後五時からの終業点呼の際、鈴木助役が全員に否認を通告した。

8 原告佐々木の行為は、正当な理由なく業務命令に従わず、職場規律を乱したものであり、旧日本国有鉄道就業規則(以下「就業規則」という。)六六条三号「上司の命令に服従しない場合」、一五号「職務上の規律を乱す行為のあった場合」及び一七号「著しく不都合な行為のあった場合」並びに旧日本国有鉄道法三一条一項一号に該当する。

9 原告小林の行為も原告佐々木に対すると同様の就業違反行為であるが、懲戒を行う程度に至らないものであったので厳重注意としたものである。

10 よって、被告の原告佐々木に対する懲戒処分及び原告小林に対する厳重注意は正当であり、不法行為に該当しないのは当然である。

と陳述した。

第三  原告佐々木は、被告の本案前の抗弁に対し、「本件戒告処分により、国鉄時代はもとより、JR東日本職員になってからも賃金上不利益な扱いを受けているから、JR東日本における賃金上の不利益を回復するために戒告処分無効確認の訴の利益がある。」と陳述したうえ、原告両名において被告の抗弁はすべて否認すると陳述し、なお、原告佐々木は次のとおり主張した。

原告らは、当日の交検作業におけるいわゆる( )車両が従来と全く異なった形であったためその取扱をどうするのか質問したものである。前日、助役と各検査長が出席して行程会議が開かれており、右質問に対し即座に返答があるものと思われたが、助役は何の返答をせず、八時五五分頃になってようやく「作業に就いて下さい。」と言っただけで何の指示もしなかった。そこで、誰が具体的にどのように作業を進めて良いのか判らず、再度( )車両を誰が担当するかを質問した。その後、助役からは明確な作業指示が得られず、九時八分頃になって「検査長と検討しますので作業に就いて下さい。」と言ったため、( )車両の担当は助役と検査長の検討に任せることとして作業に就いたものである。

作業開始が通常より遅れたことが問題となるなら、その責任は適切な作業指示を欠いた管理者にあるのであり、本件処分は、分割・民営化問題に揺れる国鉄職員に対し、被告が是非を慎重に判断することなく行った処分であって、原告佐々木に対する戒告処分は懲戒権の濫用である。

(立証)

当事者双方の立証は記録中の書証目録及び証人等目録の記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

(争いのない事実)

一  原告両名が昭和五九年一一月九日当時国鉄の職員であって、原告佐々木は仙台鉄道管理局仙台運転所の車両検査係、同小林は同運転所の車両検修係として勤務していたこと及び請求原因二の事実は当事者間に争いがない。更に、原告佐々木が本件訴訟提起後である昭和六二年四月一日をもって国鉄を任意退職し、同時にJR東日本の職員に採用されたことも当事者間に争いがない。

(戒告無効確認請求に対する本案前の抗弁の判断)

二 労働基準法が適用される労働関係において、使用者が行った懲戒処分から生ずる種々の権利紛争につき、被処分労働者が概活的に懲戒処分無効の確認訴訟を提起することが許されている所以は、当該懲戒処分の効力の有無が判断されることによって、該処分をめぐる一切の法律上の紛争が一挙に解決される点に確認の利益が認められるからであり、この訴訟は当該紛争が継続する限り許されるところである。本件戒告処分についてこれをみるに、国鉄が原告佐々木に対する懲戒処分を発令したのは昭和六一年四月二一日であり、同原告が国鉄を退職しJR東日本に就職したのは昭和六二年四月一日であって、右懲戒処分発令以降国鉄を退職するまでの間、被告佐々木は右の期間右懲戒処分による不利益を受けたのであるから、同原告主張にかかるJR東日本における賃金格差の回復をもって訴の利益があることを根拠づけることはできないが、本件戒告処分時から国鉄を任意退職するまでの間の不利益を排除するため、右処分の効力を争ってこれの無効確認を求めることは可能とはいわなければならない。したがって、被告の本案前の抗弁は理由がない。

(請求に対する判断)

三 (証拠略)によると、以下の事実が認められる。

1  昭和五九年一一月九日に行われた交検は、交検一番線には所定一二両編成のところ、上野方の三両を切り離して九両入線し(所定一二両編成の列車は三両ずつ四群に区分されるが、上野方から第一群の三両は切り離して入線した。)、運転台のある上野方三両は、車輪削正のため切り離されていた。したがって、当日の交検は第二群の三両につき行い、第三群、第四群(合計六両)は交検を要しない( )車両となっていた。交検に使用する運転台付車両は、上野方を切り離しているため、青森方の先頭車両を使用することになった。普段の交検では、上野方が切り離されていなかったため上野方の運転台付車両から電源をとり、交検の対象となる以外の六両に、電気回路を構成するための器具の取付けは必要なかったが、当日は上野方が切り離されていたため、青森方の運転台付車両から電源をとる必要があり、その中間に介在する交検を要しない六両について、いわゆる介物(交検車と運転台のある車両との間に介在する車両に取付けることにより、両車の間に電気回路を構成させるために接続プラグと木片からなる小さな器具)が必要となった。

2  ところで、国鉄の職場規律の是正措置のなかで、昭和五八年三月の車両検修近代化の効率化実施以降は、交検に付帯する作業は所定の交検要員で行うようになっていた。( )車両要員はすでに外されており、この点について、既に労働組合と国鉄当局との話合はついていた。また、その中で、( )車両が増加した場合の措置についても誰が担当するかの点について取決めがなされていた。交検作業の中で、PCなり補助担当モーターなりが( )車両の介物を担当することが決められていた。

3  また、仙台運転所には、作業内容を事前に知らせるため黒板が掲示されていて、そこに分担も示されていた。右黒板には、翌日の交検車等が記入され、黒板の下には分担毎に木製の指名を記入した札が掛けられていた。当日の出番の職員は、これを見ることにより、翌日の交検車、作業担当者がわかるようになっていた。後記5(同所で引用する抗弁3乃至5参照)庄子幸吉車検は、本件前日の一一月八日午後四時三〇分頃に右黒板を見て、翌日( )車両が六両であり、通常の三両より三両多いことを知っており、その直前に行われた翌日の交検等につきなされた定例の行程会議を終えたばかりの鈴木武夫助役に対し、「明日の交検は変則だ、( )に要員をつけないと駄目だ。うまくやってくれよ。」などと文句を言っていた。

4  昭和五九年一一月九日、仙台運転所第三検修室において、午前八時四〇分から所定どおり、鈴木助役が交検班の三八名に対し、呼名点呼を行った。その後、あらかじめ配付してある作業日報に従い、午前八時四三分頃、鈴木助役が作業指示として次のように読み上げ、点呼を終えた。

「交検一番線、交検はS八五の四八(車両番号)、×印(硝子清掃省略車)TS八の一二五、無印(硝子清掃必要車)の二M一T(三両)。上野方二M一T(三両)欠の入線です。本日は第二群の交検で第三、四群が交検を要しない車両六両となり、青森方が運転台となります。介物、PC(制御器関係作業)、上電(屋根上、室内関係作業)担当の車検です。加圧試験時はT車より電源誘導を行います。その担当は上電車検です。車両の使い(使用)は一〇日の一〇〇六M編成となります。」と読み上げた(この指示は、通常は行わない( )車両等の担当を示しながら作業指示を行ったものであり、また、あらかじめ各担当者に渡されていた作業日報にも、〈省略〉という記載がしてあった。)。

5  交検は点呼が終了すると直ちに実施されることになっていた。しかしながら、前記点呼終了後原告両名を含む交検班三八名の行動は抗弁事実3乃至6のとおりであり、これに対し、当日管理者が執った措置は抗弁事実7のとおりである。

四 右に認定した事実によると、原告佐々木は、既に当局と労働組合との間に解決がついている作業人員、作業方法について、無用の抗議をし庄子車検と意を通じ、点呼終了後直ちに作業に入らなければならない交検班員の就労を遅らせ、上司である鈴木武夫検修助役の就労命令に従わず、他の交検班員とともに一四分間勤務を欠いたものというべく、原告小林も同様就労命令に従わず、同じ時間勤務を欠いたといわなければならない。原告佐々木は右抗議に関し種々抗争するが、右三に認定した事実に照らし、その主張事実は認めることができない。

以上によると、原告両名の右所為は旧日本国有鉄道法三一条一項一号就業規則六六条三号、一五号及び一七号に該当し、被告の原告佐々木に対する戒告処分は同原告の行為の態様に照らし相当であり、原告両名の不法行為の主張は失当である。したがって、被告の抗弁は理由がある。

(結び)

五 よって、各原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮村素之 裁判官 水谷正俊 裁判官 青山智子)

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